精神科で身体拘束が激増
精神科での身体拘束が急増しているとの新聞報道。
身体拘束とは激しい興奮状態にある入院患者が、自殺したり、自分で自分を傷つけたり、他人に暴力を振るわないよう、医療用のマグネット式抑制帯でベッドに拘束することです。
この拘束行為が2003年から2014年で2倍に増えたとの統計があるそうです。
認知症のお年寄りを拘束してしまうのとは違いますよ。
その目的を見るかぎり、自傷・自殺・暴力行為の防止ですから、身体拘束が悪いわけではないと思うのです。
ところが、ニュージーランド人男性(27)が精神科で身体拘束を受けた直後に急死するという事故が起こり、拘束行為に火をつけたのです。
新聞記事では、精神科での患者の体験談を取り上げ、不当な身体拘束をしていると精神科病院を批判しています。
「4ヶ月間拘束され、寝返りすらうてない状態だった」、「拘束されオムツをはかせられた状態でトイレにも行かせてもらえなかった」
【広告】
日本の精神科だけが時代に逆行
世界の精神科病院が身体拘束を避ける方向に動いている中、なぜ日本だけが急増しているのかと疑問を投げかけています。
さらに間の悪い事に、拘束直後に死亡者までだしいると読者の感情を煽る。
不当に拘束されたとクレームをつける患者の怒りの声でとどめを刺す。
精神科の立場は悪くなるばかりです。
これ、酷い記事ですね。
底が浅いというか、視野狭窄というか、精神科側の意向を考慮していない。
こんな記事を全国紙がぬけぬけと掲載してしまう鈍感さに呆れてしまうのです。
【広告】
アメリカの精神科の修羅場を見てみろ!
アメリカの事例では確かに10年前に比べ身体拘束は1割~2割に減少しています。
隔離拘束など、力ずくで患者をコントロールするのではなく、ケアマネジメントによる安全・安心な精神医療を実現していると言っています。
でも、こんなのは表向きの答弁で、現場ではとんでもない修羅場状況に陥っているんです。
安全・安心が患者のわがままを助長し、歯止めがどんどんきかなくなってるのです。
好きな時間に好きなところでタバコを吸い、大声で怒鳴る。
妄想から興奮状態の患者は、何を言ってもコントロール不能。
病院内の秩序は崩壊し、病院スタッフは患者の動きを掌握しきれない。
スタッフの8割が患者からの暴力被害を受けているんです。
【広告】
拘束せずにどう対処する?
極度に興奮した精神疾患者には沈静剤が効かないこともあります。
普通なら数分間で意識が朦朧とし眠ってしまうような沈静剤がちっとも効かない。
投与の最大量を使っても、おとなしくなるどころかますます暴力的になってくるばかり。
幻覚・幻聴で頭のなかはメチャクチャになっていますから、医師も看護師もみんな敵に思えるのでしょう。
そんな状態だったら、残された手段は時間だけです。
時間をかけて、落ち着きを取り戻すのを待つしかない。
その際に、どうしても身体拘束が必要となるわけです。
ベッドに拘束して、あとは薬が効いてくるのをじっくりと待つしかない。
その際にベテラン医師が患者の様子をしっかりと観察し、拘束を解除するタイミングを計れれば問題にはならないのです。
でも、そこまで時間に余裕のある医者は日本には居ない。
なにせOECD(経済協力開発機構)加盟国のなかで、日本は医師不足の国のNo.1ですから。
冒頭のニュージーランド人男性が死亡した経緯を見てみると、4月30日に兄の自宅で暴れ、措置入院を受けています。
それから5月10日まで身体拘束され、心配停止で死亡。
原因はエコノミークラス症候群です。
ここでジレンマがあるのです。
亡くなったニュージーランド人男性は躁鬱病でした。
薬物投与しても、それが効き始めるまでに2週間程度はかかってしまう。
その間に、再び興奮状態になって暴れだす危険は充分あるのです。
医師が拘束を解除しなかった理由はそこにあるのです。
拘束を解除して、目の届かないところで暴力事件を起こされても困るわけです。
躁鬱病の躁状態は最もリスキーな精神状態じゃないですか。
躁状態で放置され、人生を棒に振った人の数は計り知れません。
安易に、身体拘束が引き起こした殺人事件のような報道が、いかに薄っぺらなのかがわかります。
精神科病院での身体拘束が激増していて、死人まで出しているという記事で、どれだけの人が精神科の受診を躊躇したことか。
自分ももしかしたら拘束されてしまうかもしれないと、患者さんを不安に陥れるようなダメ記事です。
精神科病院の不手際を暴露したかのような報道に、底の浅さを感じずにはいられないのです。
【広告】
関連記事