渋谷、新宿、池袋あたりだと、路地裏あたりで4,5人の若者がしゃがみこんで談笑しているのを目にする。
真っ平なツバのメジャーリーグキャップにタンクトップ姿。首には金、銀のジャラジャラがぶら下がり、指には髑髏の指輪。いかにもアナ―キーな臭いがする。
歳の頃は高校生あたりだが、この時間帯にここにいるのはスピンアウトした証拠でもあるのです。とはいえ、談笑しているだけだから人に迷惑をかけているわけではない。
で、何かの勢いに突き動かされて彼らに話かけてしまったのです。
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アナーキーかと思いきや以外にも普通の若者
「キミたちはここで何をしているの?」
5人の中の一人が振り向くと、サラリーマンのオレに目を合わせてきたのです。別にガンを飛ばすようなリスキーな雰囲気はなく、むしろ微笑みがかった感じ。
「何するってわけじゃねーけど、明るいうちから酒飲むのもなんだし、、、」
「酒飲むってキミたち未成年なんじゃないの?」
「ピンポーン、高校中退組でーす」
「居酒屋入れてくれるの?」
「公園で飲むの、焼酎だけ買ってさ。公園の水は無料ですからね」
「、、、、、」
ここで会話を切り上げても良かったけれど、なぜかもっと話がしたい気持ちが勝ってしまったのです。
「将来とか何になろうかと考えているの?」
「こいつはシステムエンジニア、頭いいんだよ、こんな顔してるけどさ。こっちはたぶん小説家かな。あとはサラリーマン。特技無いから」
「高校中退だとキツくない?」
そんな話を10分くらいしているうちにわかった事は、5人とも別々の高校を中退している事だった。
高校を止めた理由は疎外感だったとの事。露骨ないじめとは事情が違ったんです。
「当たり前だけど、興味のある授業があれば、少しも面白くない授業もあるでしょ。それはそれで仕方ないからサボらずに授業には出席していた。でも、最低限の成績でいいと思っていたの。無理してまで嫌いな科目に時間を割こうとも思ってなかったし。だから赤点よりも少しだけ上の点数を取れればいいと考えていた。赤点だと追試とかレポートとか、余計に面倒なわけ。でもそれが教師に言わせると、ふざけている、って。もっとちゃんと学問と向き合えっていうわけ」
「教師の言い分は、やればできるのに手抜きするなって事なんじゃないの」と誰にでも思いつく感想を述べた。
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教師は全力を尽くさせたいが、そんなの本人の自由でしょ
最低限の点数を取ろうと思って、実際に取れるのだから、もう少し上を狙うのはたやすいだろうと。でも、そうすべきか否かは本人の自由なんです。
教師と膝を付き合わせて話し合えば、わかってもらえるかもしれない。好きな科目に注力したいのだと、誰だって考えるでしょうから。
でも、教師がこの生徒に牙をむいたのには理由があったのです。
アナーキーなんだよ、お前は!
テストの答案用紙を生徒に返却するときに教師が言ったそうです。
「アナーキーなんだよ、お前は!オマエみたいな奴がとんでもない犯罪者になるんだ」
アナーキーとは反社会性という意味で、この生徒を犯罪者予備軍扱いしたというわけです。いつか絶対に犯罪に手を染めるに違いないとみんなの前で断言したのです。
本当の実力を出し惜しんで、わざと低い点数をとる生徒がいたっておかしくはない。実際問題、試験勉強の際の時間配分の問題なわけです。
教師をここまで怒らせたのはいったい何だったのかが、気になるわけです。
その答えは、教師の無力感にちがいないのです。
100点を取れる実力がありながらも、わざと95点にとどめておく。引っかけ問題にわざと足を滑らせて教師に花をもたせたというところでしょう。
完全なる赤点の20点だったとしたら、対応策は追試にするかレポートを書かせるかです。いずれにしても生徒のその後を左右するのは教師なのです。
ところが赤点ギリギリでクリアーしてしまうとなると教師は成績表に評価の数値を入れるだけで、手応えがないのです。
教師は自分を無力な存在と感じてしまったのでしょう。
少しでも高い評価を得たいなら教師に媚びたり、コマをすったりするかもしれません。でも、単位さえもらえればよいとなれば、教師の威厳などないも同然なのです。
お前はアナーキーなんだよ、と叫んでしまった教師は、この無力感を帳消しにするためだったのです。
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