仕事中毒
夕方6時を過ぎても、仕事の手をいっこうに休める気配はない。
彼にとって残業なんてあたりまえだから、夜8時だろうが9時だろうが平気で電話をかけまくる。
受話器の向こうに相手がいれば「遅くにすみません」と、恐縮した声色で高笑いする。
たまたま業務が立て込んでいる非常事態ではないのです。
一年中、こんな調子で取りつかれたように仕事漬けを満喫している仕事依存症。
正真正銘の仕事中毒なのです。
注意をすると一時的に残業時間が改善されるが仕事への依存度が変わる事はなく、すぐに戻っている。
結局、残業時間が減ることはなかったのです。
仕事内容に変化をもたせては、と新入社員を下につけて社員育成を命じてみました。
その新入社員は半年でうつ病を発症し、長期休暇へと追い込まれることになってしまいました。
些細なミスでも徹底的にダメ出しを繰り返す異常心理の持ち主で、仕事への強烈な執着心が下支えになっていたのです。
「なぜ教えた事ができない?なにがそんなに難しい?これでミス何回目?」
同じ間違えは断固として許さない。
ミスった一点を凝視させ続ける。
間違えた原因を本人に考えさせて、二度と同じミスをおかさぬよう対策を講じさせるのです。
やっていることは間違っちゃいないけれど、、、と周囲の人たちは思う。
でも一日に5回間違えれば、対策書が5枚出来上がることになる。
これ、現実離れしていると思いませんか?
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新入社員のうつ発病
仕事中毒の彼の下で働いていた新入社員は6ヶ月を過ぎたあたりで休みがちになっていきました。
体調を崩したと1週間ほど会社を休んだ後、自宅から会社宛てにe-mailが送信されてきました。
「心療内科を受診したところ、うつ病との診断で長期の休暇が必要とのことです」と記されていたのです。
電話で事情を説明するだけの気力もなかつたのでしょう。
仕事中毒の原因は現実逃避か?
それにしても、彼を見ているとまるで嫌な物から目を背けるために、仕事に打ち込んでいるように見えるのです。
ワーカ―ホリックの原因は現実逃避ではないかと。
まるで現実の生活の中にポッカリと空いた空虚な何かを忘れ去る為に一心不乱に働らいているように見えるのです。
客先ウケのいい顔のその下には、思い起こしたくないなにかが潜んでいるのではないかと。
仕事中毒にのめり込むことで不安、孤独、劣等感を帳消ししよとしているのではないか、と。
表向きは、すべての優先順位は顧客満足度に見えなくもない。
利益を度外視した親切精神。
「利益なんて少し頂ければいいのです、お客様に貢献できればそれだけで満足なのです。」
だが、そんな言葉の背後には満たされない空虚感がぽっかりと口を開けている。
息苦しい心の闇から逃避するために仕事に依存しているのではないのか。
仕事がが唯一自己肯定の手段なのではないかと。
本人は自ら好きで仕事のめり込んでいるのだから、カウンセリングやセラピーなど受ける気はさらさらない。
当然のことながら、人事部から残業時間の多さを指摘されますよね。
すると、自ら進んでサービス残業へと突入していくんです。
残業代が欲しいわけではないのです。
仕事のやり方を改善するつもりも全くない。
同僚からは煙たがられ、彼を苦手とする社員が多数です。
仕事中毒を責任感の強さとみる場合もありますが、彼は別の原因でしょう。
彼にとっての仕事とは、いったい何なのでしょうか?
ワーカ―ホリックの原因は仕事以外の何かから逃げようとする心理現象だと言います。
家庭内でのトラブル、本人が抱える身体的なハンディキャップ、過去に徹底的に否定されたトラウマ、子宝に恵まれなかった反動、醜形恐怖症、、、、。
仕事に依存し、しがみついて神経症を牽制しているのです。
彼には家庭があります。 通勤時間40分ほどのマンションに奥さんと二人暮らし。
歳は43歳。 管理職の一歩手前まで上がってきたけれど、そこで5年も留まっています。
会社の規定上、もはや管理職に就くことはできないのです。
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今になって思うと、管理職への道が閉ざされたあたりから仕事への執着心は異常に強くなっていきました。
次第に回りの人間が彼から離れ、孤独になっていった。
そして増々、常軌を逸脱したように仕事にのめり込んでいったのです。
執着心を手放すと、潜在意識が働いて夢が叶う、なんて言います。
でも彼には100%通用しません。
これでもかと会社に自分の存在を見せつけるかのように働き続ける異常心理状態です。
うつ病から復帰した新入社員は 別の部門へと配属を変えることになりました。
本人も居づらいでしょうし、うつ病前と違った職場環境のほうが好ましいと精神科医からのアドバイスもあったのです。
たまたま相性が悪かっただけだろうとワタシ自信は思い込みようにしていました。
まさか、自分のところからうつ病の社員がでるとは思ってもみませんでしたから。
早合点でうっかりミスの新入社員と、ミスを許せない中堅社員の組み合わせだったんだ、と。
人事部から長時間残業のレポートが定期的に回ってきます。
案の定、彼はトップレベルの残業社員。
過労死リスクを会社側は気にしているけれど、本人は何も犠牲になどしていない。
これ以外に生きがいを見出せない視野狭窄の異常事態を生きている。
慢性的な長時間労働者なのです。
対策という対策は正直言って思いつかない。
中毒症状など緩和できない
人事部への対策ポーズとして派遣社員を雇って、もう一度彼の下につけてみました。
ご想像の通り、結果は新入社員の時と変わりなかったですね。
うつ病こそ発症しませんでしたけれど、2ケ月間棒立ちの状態でひたすらミスを指摘され続け、派遣契約の延長を断ってきました。
満足に輸出書類も作成できない、エクセルで表を作成することもできない、
輸出貿易管理令も知らない、ヨーロッパの安全規制も理解できないと、契約社員の未熟さを周囲にさんざん触れ回っていたのは耳に届いていました。
いったいこの人の頭の中はどうなっているのだろうか?
出来が悪ければ悪いなりに使いようがあるだろうに、と思うのです。
雑用でもなんでもやらせて、少しでも残業時間を減らせばいいじゃないかと思うのです。
しかし、その発想がそもそも間違っているのです。
だって、彼は仕事に自分のすべての時間を捧げたいのですから。
仕事中毒だからこそ心の平和が保てる
派遣社員の悪さ加減を並べたて自分を比較する。
派遣さんの未熟さを挙げ連ねて周囲にアピールする。
誰かをこき下ろす事で、相対的に自分の評価を高めようという心理。
そんじょそこらの素人では刃が立たない高レベルの仕事をしているのだと主張しているのです。
忙しければ忙しいほど強い手ごたえを感じる。
管理職を断念し、生きる拠り所を仕事その物に設定した瞬間からこのスタイルで生きることに決めたのだろう。
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だからこそ仕事は誰にでも務まる容易ものであってはならない。
こだわりをもって執着できる仕事でなければならない。
自分にしかできない難易度の高い仕事でなければならない。
プライベートの空虚さをしっかりと埋めてくれる、手ごたえのある仕事はでなければ意味がないのだ。
仕事にやりがいを見出すのとは微妙に違うのです。
仕事が嫌いでは決してないけれど、ただ好きで好きでたまらないのとも違うのです。
人生を楽しめない人の典型、仕事だけの人生。
出世を諦め、それでもそこにしがみつかなければ満たされない黒々とした欲求が腹のなかにあるのでしょう。自分の心に蓋をして、自分に嘘をつくことで命をつないでいるのです。
仕事にこだわりをもち、誰に対しても、それを汚すことを絶対に許さない。
彼にとっての仕事とは、そんな位置づけなのです。
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