最終回『A LIFE~愛しき人~』・「ゴメン、深冬のオペ、出来なくなった」

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副院長を解任された壮大が奥フロアー奥の沖田の個室を訪ねてきた。
「沖田、お前には本当に申し訳ない事をしたと思っているんだ。院長のオペのためにお前がシアトルからも呼び戻されると聞いて、深冬からお前を引き離す画策をしたことを急に思い出した。」
「シアトル行きの件だな。先日院長から知らされた。」
「卑怯者とののしられても仕方ない。でも、俺も必死だった。やっていい事と悪い事の区別すら付かなくなっていたのかもしれない。深冬と一緒になり、いずれ壇上病院の院長の座に座るという野望があった。だが、結局こうして副院長を解任され、放うりだされ、つくづく自分が無力だと実感したよ。今、俺の味方は深冬と娘だけだ」
「いや、お前には外科医としての一流の腕があるじゃないか」
「解任された直後は俺もそう思った。すぐに別の病院から声がかかると思っていた。だがあれから1週間、どこの病院からも音沙汰なしさ」
「院長のさしがね、、、?時期をみてお前を副院長に戻すつもりなんじゃないのか」
「そうであれば有りがたいんだが、、、。」

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 「沖田、1週間後の深冬にオペ頼んだぞ」
「そのことなんだが、院長は俺にシアトルに戻れと言ってきた。」
「ええっ!それじゃあ誰が深冬のオペを、、、。」
「どうやらシアトルの俺の恩師に院長じきじきに連絡をとったみいなんだ。昨夜も恩師からメールで深冬の容態を詳しく聞いてきた」
「どういうつもりなんだ院長は」
「俺もお前も、深冬に対して特別な感情を抱いていると判断したのだろう」
「俺はともかくお前まで?」
「先日のオヤジのオペで一度ミスってるしな、、。」

 

沖田が早朝からの身辺整理を終え、ひと休みしていたとき再入院の深冬が職場に現われた。
「みなさん、今日からまた入院する事になりました」と深冬が挨拶したとき、奥の沖田の個室の様子に気づいた。
「沖田先生?沖田先生、なにしているの?」
沖田の個室に駆け寄った深冬は、扉を開けて、がらんと片付けが済んだ部屋を目のあたりにした。
沖田の荷物はダンボール箱と、大きなスーツケースにまとめられている。

「沖田先生、どういうこと?」
深冬は状況が把握できずに、白衣を脱いだ沖田を見つめた。
「ゴメン、深冬のオペ、出来なくなった」
「えっ?」
「院長命令で、この病院も今日が最後」
「あたしの手術を放り出してここを去るつもり!」
深冬は取り乱すまいとするが腕の震えがとまらない。
「深冬、聞いてくれ。壮大が解任されたあと、院長がシアトルの俺の恩師に連絡をとって、手術の方法を沖田が探し当てたのだと話した。しかし、深冬に特別の感情を抱いている俺にオペを任せるのは危険だと判断したそうだ」
「それで、シアトルから見ず知らずの医師を呼び寄せて執刀させようというのね!」
「沖田先生は、自分の技量に自信が持てなくなって、ああこれで助かった、厄介事から解放されるとここを出て行くつもりなのね」
「そんなんじゃない、深冬冷静になってくれよ」
「あたしはいつだって冷静よ、もう覚悟はできている。ただ、あたしを救えるのは世界でただ一人、沖田光一だけだと思ってた。沖田光一なら絶対にあたしの命を救ってくれると思ってた」

 

手術の前夜、深冬は眠れぬ夜を過ごした。
処方された睡眠薬をあえて使わずに、しらじらと夜が明ける光を感じていた。
これが最後の夜明けになるかもしれない。

 

院長の要請でシアトルやってきた沖田の恩師は、ベテラン看護師一人を連れて壇上病院の敷居をまたいだ。沖田から事細かな資料が既に渡っていて、充分な準備は整っているように思われた。

オペ室に通じるいつもの廊下を初老のドクターが背筋のばして歩いてゆく。すでにベテラン看護師はオペ室で待機している。

自動ドアが開き、初老の医師はオペ室に入ると手術着に両腕を通し、ピシッと乾いた音をたててゴム手袋にはめた。

横につた看護師が医師の青い目を覗きこんで言った。
“Are you ready?”
“Not Yet”

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 病院中のドクターがモニターでオペ室の様子をのぞき込んでいる。
なぜ始めないんだ!

再び、背後の自動ドアが開いた。
手術着姿の沖田と壮大が入ってきた。

 「なにをしておるんだ、あの二人は?」院長室で机をドスンと叩く音が響いた。
オペ室の電話が鳴った。
「出なくていい」と沖田が看護師を制す。
「院長室からですよ、沖田先生!」
「俺はもう、ここの病院の医者じゃない、だから院長もなにも関係ないんだ」

 

 手術の翌日、病室のベッドに横たわる深冬を前に壮大が座っていた。オペの際、神経に関わる部位を丁寧に切開したのは壮大だった。
沖田のバイパス術へとバトンを渡したのだった。

 沖田は成田空港の出国ロビーにいた。もう、壇上記念病院にいる理由はなにもない。
自分を育ててくれた恩師が深冬についていてくれる。あそこにいて、暫くオペの成功の余韻にひたりたかったが、院長にたてついた手前、そういかない。
深冬のオペ成功祝いとして最後に壮大と酒が飲めたのが、せめてもの救いだ。
ロビーのベンチにひとり座り、恩師がオペ成功のときにいう言葉を昨日、久しぶり聞いた。
“Take a look!She is alive.”(ほら、みてみなさい、彼女は生きているんだ)

 

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